イライラの連鎖を断ち切る!感情との上手な付き合い方
1. なぜ感情のコントロールが必要なのか?
介護現場は“感情”が動く場所
利用者・家族・職員同士とのやり取りが多い職場
介護現場は、毎日多くの人と関わり合う仕事です。利用者とのコミュニケーション、家族とのやりとり、そして職員同士の連携…。その中では、当然ながら感情が動く場面がたくさんあります。笑顔や感謝を受け取ることもあれば、理不尽な要求やきつい言葉をぶつけられることもあります。だからこそ、自分の感情をそのまま反応に出すのではなく、「どう対応するか」を選べる力が求められるのです。
ストレスや感情のぶつかりがケアの質を左右する
イライラや落ち込みを抱えたまま対応すると、表情や声のトーン、言葉選びに出てしまいます。その結果、利用者との信頼関係が崩れたり、チーム内の空気が悪くなったりすることも。反対に、感情を整理し、冷静に対応できると、トラブルを防ぎ、穏やかな空間をつくることができます。感情のコントロールは、ケアの専門性の一部と言えるのです。
「怒らないこと」が目的ではなく「感情と向き合う力」が大切
感情のコントロールというと、「怒ってはいけない」「常に冷静でいなければならない」と考えがちですが、それは違います。怒りやイライラ、不安や悲しみといった感情は、誰にでも自然に湧き上がるものです。大切なのは、その感情を「なかったことにする」のではなく、「どう付き合うか」「どう立て直すか」を学ぶことです。それができれば、自分を守り、周囲との関係もより良く保つことができます。
感情をコントロールできないと起こること
言いすぎてしまう/無視してしまうなどの不適切対応
感情が高ぶったまま対応すると、言葉がきつくなったり、無意識に冷たい態度をとってしまったりすることがあります。たとえば、「何度言ったらわかるの!」と強く言ってしまったり、あえて無視してしまったり…。こうした行動は、利用者にとって心の傷となるだけでなく、信頼を損ねる原因になります。どんなに正しいことを言っていても、“感情的な伝え方”はケアの質を下げてしまうことを忘れてはなりません。
自分自身が罪悪感や疲労感を抱える
感情にまかせて対応したあと、「あんな言い方をするべきじゃなかった」「また怒ってしまった」と、自分を責めてしまう職員も少なくありません。感情を抑えられなかったことへの後悔は、心の負担となり、仕事へのモチベーションや自信を失う原因にもなります。感情のコントロールは、周囲のためだけでなく、“自分自身の心を守る手段”でもあるのです。
チームの雰囲気や信頼関係が悪化
感情のままに行動すると、その場限りではなく、周囲の人との関係性にも影響が出ます。たとえば、利用者や同僚が「いつもピリピリしている」「何か言ったら怒られそう」と感じれば、本音を言えなくなり、連携がうまくいかなくなります。感情が連鎖すると、チーム全体の雰囲気も悪くなり、ケアの土台が揺らいでしまうのです。
2. 感情はどうやって生まれるのか?
感情の正体=「自分の受け取り方」
同じ出来事でも、感じ方は人それぞれ
たとえば、利用者に「そんなこと頼んでない!」と言われたとき、ある人は「責められた」と感じ、別の人は「困ってるんだな」と思うかもしれません。**起こった出来事は同じでも、感じ方が違うのは“受け取り方”に個人差があるからです。**つまり、感情は相手が作るのではなく、自分の中から生まれるもの。感情の出発点は「どう受け取ったか」にあると理解することで、イライラのコントロールがしやすくなります。
「なんでそんな言い方するの?」→「言われた側の受け取り方」
私たちはつい、「あの人の言い方が悪い」「あんな態度を取られたら腹が立つ」と思ってしまいがちですが、実はその反応の多くは“自分の解釈”に左右されています。同じようにきつい言葉をかけられても、受け流せる人もいれば深く傷つく人もいます。つまり、感情のスイッチは外にあるのではなく、自分の心の中にあるという視点を持つと、少し客観的に気持ちを見つめやすくなります。
自分の価値観・過去の経験がフィルターになっている
「ちゃんと挨拶するべき」「感謝を言葉にするのが当たり前」など、自分が大事にしている価値観や育ってきた環境は、物事の受け止め方に強く影響します。たとえば、自分の中で「丁寧に接することが当たり前」と思っていると、少しでも雑な対応に敏感になります。感情の裏には、自分なりの「こうあるべき」が隠れていることに気づくと、「どうしてこんなにイライラしたのか?」が見えてくることがあります。
イライラやモヤモヤの正体
思い通りにならないとき、期待が裏切られたときに反応が出る
感情の多くは、「思っていた通りにならなかった」という“ズレ”から生まれます。たとえば、「このくらいは分かってほしい」と思っていたのに伝わらなかったり、「もっと協力してくれると思ってたのに」と感じたとき、怒りや悲しみ、失望といった反応が出てきます。自分の中の“期待”や“前提”に気づくことで、感情の背景を理解できるようになります。
感情には「理由」がある=無理に押さえ込まなくていい
イライラすることに対して、「自分はダメだ」「こんなことで怒るなんて情けない」と思ってしまう方もいますが、感情は人間にとって自然な反応です。「なぜそう感じたか」に向き合うことで、無理に押さえ込まなくても、気持ちを整理できるようになります。感情は“コントロールすべきもの”ではなく、“理解して付き合うもの”なのです。
気づくことで“距離”をとれるようになる
「イライラしてるな」「今、私怒ってるな」と気づくだけで、不思議とその感情との“距離”がとれるようになります。気づくことで、反応を選べる余裕が生まれ、「怒りに流されて言いすぎた」ということを減らすことができます。感情をコントロールする第一歩は、“気づく力”を育てることです。
3. 感情をコントロールする具体的な方法
まずは「気づくこと」が第一歩
今、何に反応している?どんな感情?
感情をコントロールするうえで最も大切なのは、「今、自分がどんな気持ちなのか」に気づくことです。イライラやモヤモヤが湧いたとき、それが怒りなのか、悲しみなのか、疲れなのかを見極めることで、自分の反応に少し距離を取ることができます。「今、私は〇〇に対して腹を立ててる」と**“気づいて言葉にする”ことで、感情に振り回されにくくなる**のです。
怒りの裏にある「寂しさ」「疲れ」「不安」に目を向ける
怒りやイライラの感情の下には、実は「寂しさ」「不安」「無力感」といった別の感情が隠れていることがあります。たとえば、「無視された」と感じたときの怒りの裏には、「分かってもらえない寂しさ」があるのかもしれません。感情を表面的に捉えるのではなく、その奥にある“本音”に気づくことで、自分をより深く理解できるようになります。
言葉にすることで、感情を整理しやすくなる
気持ちは頭の中だけで抱えていると、どんどん膨らんでしまいがちです。紙に書き出す、誰かに話す、自分の中でつぶやいてみるなど、「言葉にする」ことで、感情は少しずつ整理されていきます。“怒っている自分”を客観的に見ることができれば、その感情に飲み込まれずに対応を選べるようになるのです。
深呼吸・離れる・視点を変える
呼吸を整える/その場を少し離れる/視点を上からにしてみる
感情が爆発しそうなとき、まず“体”から落ち着かせるのが効果的です。深くゆっくり呼吸する、少しその場を離れて気持ちを切り替えるだけでも、冷静さが戻ってきます。また、起こった出来事を「上から俯瞰して見る」ような視点を持つと、自分と感情を切り離しやすくなります。「怒ってる自分がいるな」「今ここで怒ってもいいことないな」と、一歩引いて見られる視点がカギです。
「〜すべき」の思考をゆるめてみる
感情的になってしまう背景には、「こうするべき」「普通は〇〇するはず」という強い思い込みがあることが多いです。たとえば、「新人は挨拶するべき」「時間通りに来るのが当然」など、期待通りにいかないときにイライラしがちです。そんなときは、「まあそんなこともあるよね」「完璧じゃなくても大丈夫」と、少し“ゆるめる”ことで心が軽くなります。
書き出す・相談するなど、外に出す工夫も効果的
感情を一人で抱え込んでしまうと、出口が見えなくなることがあります。そんなときは、手帳やノートに今の気持ちを書き出したり、信頼できる同僚に短く話したりすることで、気持ちが整理されることがあります。**感情は“外に出す”ことで軽くなるもの。**自分に合った方法を見つけておくと、感情に溺れず、冷静さを取り戻しやすくなります。
4. チームで感情に向き合う文化をつくる
我慢だけが“プロ”じゃない
無理に感情を押し込めると、あとで爆発しやすい
「介護職は感情を出しちゃいけない」「プロなら我慢するのが当然」――そんな思い込みが強すぎると、知らず知らずのうちにストレスが溜まり、ある日突然爆発してしまうことがあります。感情を表に出さないことと、感情を“見ないふり”することは違います。**大切なのは、感情を感じた自分を否定せずに、どう扱うかを考える力。**それが、本当にプロフェッショナルな感情の向き合い方です。
「私は今ちょっと余裕がない」と言える勇気を持つ
忙しいとき、疲れているとき、心に余裕がないのは当然のことです。でもその状態を隠して無理に頑張るよりも、「今ちょっと余裕がないです」と周囲に伝える方が、結果としてミスやトラブルの防止につながります。**感情をオープンに伝えることは、弱さではなく“自己管理能力の一つ”です。**助けを求め合える雰囲気こそ、チームの安心感と信頼を育てます。
相手を思いやることは、自分の感情も大切にすることから始まる
「利用者やチームのために頑張らなきゃ」と自分を後回しにしていると、心の余裕がどんどんなくなっていきます。**本当に人を思いやるためには、まず自分の感情にも目を向けて、整えておくことが大切です。**感情はケアの土台。自分の気持ちを大切に扱うことが、他者への温かい対応にもつながります。
チームで支え合える雰囲気を
イライラを抱え込まないで話せる関係づくり
感情を一人で抱え込むと、どんどん視野が狭くなり、些細なことで爆発してしまうこともあります。だからこそ、「ちょっと今日イライラしちゃって…」と素直に言える関係性が大切です。**弱音や本音を話せる職場は、ストレスをためにくい“安全な場”になります。**気持ちを打ち明け合うことは、チームを“人と人とのつながり”で強くする力になります。
「あの時つらかったね」と言い合える職場に
過去の出来事を振り返って、「あのとき大変だったよね」「よく頑張ってたよね」と共感し合える場があると、心の回復が進みます。言葉にして共感してもらえることで、過去のつらさも“意味ある経験”として消化されやすくなります。一緒に乗り越えた経験が、チームの絆と信頼を深めるのです。
感情を共有することは、信頼関係を築くチャンス
感情を伝えることは、怖いことでもありますが、相手がそれを受け止めてくれたとき、ぐっと距離が縮まります。**「この人には本音が話せる」という信頼が生まれることで、チーム内のコミュニケーションは大きく変わります。**感情の共有=関係づくり。だからこそ、安心して話せる環境づくりがとても大切です。
5. 利用者にも、職員にも優しいケアを
感情の扱い方で“言葉の重さ”が変わる
同じ注意でも、伝え方一つで相手の反応が変わる
たとえば、利用者に何かを注意する場面。イライラしたままだと「もう何回言ったらわかるの!」ときつい言葉になってしまうことがあります。でも、感情を整理してからなら「こちらの方が安心ですよ」と、穏やかな言い方ができるかもしれません。言葉そのものより、“どんな気持ちで発するか”が相手に伝わるということを忘れずにいたいものです。冷静な対応が、信頼を生みます。
一呼吸おいた対応が、トラブルを防ぐ力になる
感情が高ぶったときほど、反射的に行動しがちです。しかし、そこで深呼吸をひとつ入れるだけで、冷静さが戻り、言葉の選び方や態度が変わります。一呼吸おくことは、「感情に流されずに対応を選ぶ」という力です。たった数秒の“間”が、自分も相手も守ってくれる大切なクッションになるのです。
“やさしい伝え方”は、ケアの質を引き上げる武器
やさしい言葉や態度は、相手を安心させるだけでなく、自分の心も落ち着かせてくれます。やさしさは甘さではなく、相手の尊厳を守りながらも、伝えるべきことをしっかり伝える力です。怒鳴らなくても伝わる、強く言わなくても動いてくれる――そんな関係性をつくるのが、やさしい伝え方の力。これは介護のプロとしての大きなスキルのひとつです。
感情と向き合うことで、ケアも人間関係も変わる
感情を押し込まず、向き合い、コントロールする力は“自分を守る力”
感情に気づかずに我慢していると、心も体も疲弊していきます。逆に、感情に向き合い、コントロールする方法を身につけていれば、ストレスに強くなり、気持ちの切り替えも上手になります。これは、対人援助の仕事を長く続けていくうえでの“セルフケア”の基本でもあります。
自分を大切にすることが、相手を大切にする第一歩
他者に優しくするには、まず自分に優しくすることが大切です。疲れている自分に気づいて休む、頑張った自分に「よくやったね」と声をかける――こうした小さなセルフケアの積み重ねが、心に余裕を生みます。余裕があれば、どんな場面でも“やさしい選択”ができるようになるのです。
安心と信頼のある現場は、“感情に優しい”職員から始まる
「忙しいけど、お互いに思いやれる」「つらいときに誰かが気づいてくれる」――そんな職場には、自然と優しさと信頼が生まれます。そしてその空気感は、利用者にも伝わっていきます。感情に優しくなれる職員は、人にも優しくなれる人。そんな一人ひとりが支える現場が、安心と信頼に満ちた“質の高いケア”を実現していきます。
まとめ:感情との付き合い方が、ケアの質を変える
1. 感情をコントロールする目的は、「冷静でいること」ではない
• イライラ・不安・怒り…感情は誰にでも自然に起こるもの
• 大切なのは、気づいて、整理して、対応を選べる力を持つこと
• 自分を責めず、感情と向き合うことが“プロのケア”に繋がる
2. 感情は「相手のせい」ではなく、「自分の受け取り方」から生まれる
• 同じ言葉や態度でも、感じ方は人によって違う
• 自分の価値観・期待・疲れなどが反応を左右している
• 気づくことで、感情との“距離”がとれ、振り回されにくくなる
3. 感情のコントロールは技術。練習すれば誰でも上達する
• 深呼吸する/一歩離れる/言葉にする…できることから始めよう
• 「こうすべき」をゆるめ、「まあいいか」と心に余白をつくる
• 自分に合った“感情の整え方”を見つけることがポイント
4. チームで支え合うことで、感情にやさしい職場が育つ
• 我慢や無理を美徳にせず、「つらい」と言える環境を
• 本音を言い合える関係性が、ストレスとミスを減らす
• 感情を共有することは、信頼関係を築くチャンスでもある
5. 自分の感情を大切にできる人は、相手にもやさしくできる
• ケアは“感情の仕事”――心が整ってこそ、よい支援ができる
• 自分に余裕があるからこそ、やさしい声かけが生まれる
• 感情を整える力が、あなたの言葉と行動に“信頼”をもたらす
怒らないことではなく、“立て直す力”があなたと現場を守ります。
今日からできる、小さな感情リセットを。
感情とのつき合い方は、ケアの専門性の一部です。
おわりに
最後までお付き合い頂きありがとうございました
いかがだったでしょうか?
スライドの作成もやりやすい形にしてみました。
参考にして頂ければ幸いです。
参考になるかわかりませんが、自分が職場研修で使用したスライドも載せておきます。
ダウンロードはコチラから
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