伝える力がケアの質を高める!介護記録の書き方とポイント
1. なぜ記録が大切なのか?
◯ 記録は「ケアの見える化」
・チームでの情報共有を支える
介護現場では、複数の職員が一人の利用者を支えています。その中で、誰が・いつ・何をしたかを正確に共有するためには、記録が欠かせません。記録があることで、引き継ぎや申し送りがスムーズになり、職員間の「言った・言わない」などのトラブルも回避できます。記録は、バラバラになりがちなケアの内容を“つなぐ”役割を果たしてくれる、大切なコミュニケーションツールなのです。
・利用者の状態を客観的に記録する
「今日は元気だった」「落ち着いていた」など主観的な表現ではなく、歩行距離や食事量、発言内容など、具体的で観察に基づいた記録が重要です。**記録は、利用者の状態変化を客観的に追う“証拠”として機能します。**小さな変化を記録し続けることで、早期の体調不良や認知機能の低下にも気づきやすくなります。
・継続的なケアの根拠になる
介護は一日で完結するものではありません。だからこそ、記録を残すことで、「前回どうだったか」「この対応は有効だったか」といった**過去の情報が、今後のケアの質を左右します。**また、記録を見ればその人らしさや日々の生活の中で大切にしていることも見えてくるため、パーソンセンタードケアの視点からも重要です。
◯ 記録の質がケアの質を左右する
・曖昧な記録が誤解やミスを招く
「ちょっと調子が悪そう」「よく寝ていた」などの曖昧な表現は、受け取る側によって解釈が異なり、誤解を招く原因になります。たとえば「調子が悪そう」ではなく「昼食を3口しか食べず、表情に疲れが見られた」と書くことで、**次の支援者が正確な判断をしやすくなります。**曖昧さをなくすことは、安全で確実なケアにつながります。
・良い記録が安心と信頼につながる
「この施設はしっかりしている」とご家族や関係者が感じるかどうかは、記録の質にも関係しています。**客観的で丁寧な記録は、利用者やご家族に対する誠実な姿勢の表れです。**また、職員間でも記録を通じて「きちんと見ている・伝えている」という信頼感が高まり、チームワークがより強固になります。
・法的リスク回避の重要な証拠になる
万が一、事故やトラブルが起きたとき、記録は自分たちの行動を証明する「証拠」となります。介護事故が裁判や調査対象になる場合、記録が不十分だと“していない”と見なされてしまうリスクがあります。「その時、自分が何をしていたか」が第三者にわかるように記録しておくことは、自分とチームを守る意味でも非常に重要です。
2. 記録に必要な『5W1H』の基本
◯ いつ・どこで・誰が・何を
・「いつ」の表現は正確に
記録における「いつ」は非常に重要な要素です。「午後に転倒」と書くのではなく、「15時15分に居室内で転倒」と、**できる限り具体的に書くことが、正確な事実伝達につながります。**時間が特定されていれば、誰が担当していたか、何が起こったかを検証する際の大切な手がかりになります。時間の記録があいまいだと、状況の再確認や責任の所在が不明確になり、後のトラブルにつながりかねません。
・「誰が何をしたか」が大切
介護記録には、「誰が」「何をしたか」を明確に書くことが求められます。たとえば、「排泄介助を行った」ではなく、「〇〇職員が〇〇様にポータブルトイレ誘導し、排泄介助を実施した」と書くことで、**対応の主体と具体的な内容がはっきりと伝わります。**複数の職員が関わる場面では、担当者の記録があることで連携がスムーズになり、責任の所在も明確になります。
・「どこで何が起きたか」を明確に
「転倒した」「失禁があった」などの事象だけでなく、「どこで起きたのか」を記載することが大切です。「食堂で」「ベッドサイドで」など、**具体的な場所を記録することで、事故の原因や予防策を考えるヒントにもなります。**また、場所の特定は同様の事象の再発防止や環境整備にもつながります。
◯ どのように・なぜ(How & Why)
・対応や結果は“具体的に”書く
「対応した」「声かけを行った」など、抽象的な表現では状況が伝わりません。たとえば、「転倒後、〇〇職員が右肘を確認し、腫脹や変色は見られなかった」と書けば、**その後の対応や医療機関との連携判断にも役立ちます。**行動の結果も必ずセットで記録することがポイントです。曖昧な表現を避け、できるだけ数値や観察結果を記すようにしましょう。
・“なぜ”その対応をしたのかも記録する
ただ行動を書くのではなく、「なぜその行動を取ったのか」も併せて記録することで、他職種がその意図を理解しやすくなります。たとえば、「表情が強張っていたため、休憩を促した」など、**判断の背景が記されていることで、次の行動への参考になります。**記録はその場限りのものではなく、ケアの意図や価値を次に伝えるツールでもあります。
・感情や推測ではなく事実を書く
「不機嫌だった」「機嫌が悪そうだった」などの感情表現や主観的な判断は、誤解を生むもとです。代わりに「眉間にしわを寄せ、返答がなかった」といった**観察に基づいた記録が求められます。**職員ごとの主観を排除し、客観的な視点で書くことが、誰が読んでも正しく状況を把握できる記録になります。
3. よくある記録ミスとその対策
◯ 曖昧な表現になってしまう
・「少し」「たぶん」などを避ける
「少し食べた」「たぶん疲れていた」などの曖昧な表現は、受け手によって解釈が変わるため危険です。たとえば「少し」でも、職員によっては「一口程度」と捉える人もいれば「半分くらい」と感じる人もいます。記録は主観ではなく、誰が読んでも同じように理解できる“事実”で構成されるべきです。「ご飯を5口食べ、汁物は手をつけなかった」など、具体的な数量や行動に基づいて記録しましょう。
・誰が読んでも同じように理解できる表現を
施設内で働く職種や経験年数はさまざまです。だからこそ、記録は誰が見ても「何が起きたか」「どのように対応したか」が明確に伝わる表現を心がける必要があります。**介護記録は“専門用語の羅列”でも“気持ちのメモ”でもなく、利用者の状態と支援内容を正しく伝えるもの。**簡潔で明快な記述を意識することで、情報共有の質が上がります。
・数字や具体例を使って記録する習慣をつける
「よく眠っていた」ではなく「22時〜5時まで覚醒なく眠っていた」、「食欲がある」ではなく「ご飯全量、汁物3分の2を摂取」といった具体的な数字や内容を用いた記録は、**誰が読んでも客観的に状況が把握できます。**最初は少し手間に感じるかもしれませんが、数字を意識して記録する習慣をつけると、正確性が格段に上がります。
◯ 抜け漏れが起きてしまう
・観察→判断→対応→結果の流れを意識
「観察した」「対応した」だけでは不十分です。観察した内容に基づいて、どんな判断をし、どのように対応したのか、そしてその結果どうなったのかを、**一連の流れとして記録することで、状況がより立体的に伝わります。**この流れを意識することで、記録の抜け漏れがぐっと減ります。
・テンプレートやチェックリストを活用
毎回同じような場面で記録内容を迷ったり、抜けが出たりする場合は、チェックリストやテンプレートを活用することが効果的です。「転倒時の記録項目」「食事観察ポイント」など、事前に項目を整理しておくことで、記録の精度とスピードが向上します。特に新人職員や記録が苦手な職員への支援にもなります。
・記録時間を確保する工夫を
業務に追われて記録が後回しになると、記憶が曖昧になったり、詳細な情報を抜かしてしまうことがあります。**なるべく「その場で」「すぐに」記録する時間を意識して確保することが大切です。**たとえば、チームで記録タイムを決めたり、余裕がある時間帯にまとめて書くなど、職場全体での仕組みづくりも必要です。
4. 見る人を意識した記録の工夫
◯ 他職種・家族・将来の自分が読む
・専門用語ばかりで書かない
介護現場では略語や専門用語が頻繁に使われますが、それが必ずしも全員に伝わるとは限りません。看護師、栄養士、ケアマネジャーなど、他職種やご家族が記録を見ることもあります。**記録は“現場内だけ”ではなく“職種横断”のツールです。**必要な場合は専門用語のあとに簡単な説明を添えることで、誰が見ても理解できる記録になります。
・感情を交えず、丁寧で簡潔に
記録には、職員自身の感情や主観を極力入れず、事実を丁寧に簡潔に書くことが求められます。たとえば「不機嫌そうだった」よりも、「返答がなく、表情が硬かった」と表現する方が客観的です。**記録は“状況の報告書”であり、評価や感想を述べるものではありません。**感情を込めるのではなく、観察した事実を丁寧に記述しましょう。
・“読み手を意識する”ことで伝わる記録に
読み手を意識して記録を書くと、内容の構成や言葉選びが変わります。たとえば、翌日の担当職員が読んだときに「次に何を気をつけるべきか」がわかる記録は、非常に助かります。自分のためだけではなく、“次の人のため”の記録であるという視点が、記録の質を高めてくれます。
◯ 「読み返したくなる」記録とは
・時系列が整理されている
介護記録は、利用者の1日の流れや出来事がスムーズに把握できるよう、時系列で整理されていることが重要です。「朝食前の出来事 → 昼の様子 → 夕方の変化」という順で並んでいると、読み手が混乱せずに状況を把握できます。時間の流れに沿って書くことで、「その場にいたような臨場感」も伝わりやすくなります。
・ケアの流れが読みやすい
ただ情報を羅列するのではなく、「観察→判断→対応→結果」の流れを意識することで、**記録を読んだ人が状況を自然に理解しやすくなります。**たとえば、「14時に傾眠傾向あり→検温し37.6℃→水分摂取促す→覚醒し表情改善」のように、対応と結果を明確に結びつけることが重要です。
・記録を通じてその人らしさが伝わる
記録は単なる業務報告ではなく、「その人らしさ」を伝える手段でもあります。好きな食べ物を嬉しそうに食べていた様子や、季節の歌に笑顔で反応したなどの小さな一文が、**その方の生活背景や個性を浮かび上がらせます。**記録の中に“その人らしさ”を意識して書き込むことで、より温かく質の高いケアへとつながります。
5. 記録が“振り返りと成長”につながる
◯ 自分のケアを見直す材料になる
・同じ場面での対応を比較できる
記録を継続的に書いていくと、過去の自分の対応を読み返すことができるようになります。「前回はどう支援したか」「何が効果的だったか」が記録に残っていれば、**次の場面で同じ失敗を防ぐことができたり、より良い方法を選択できるヒントになります。**記録は“自分だけの教科書”として活用できる、大切な振り返りのツールです。
・記録から課題や気づきが生まれる
記録を書くことで、何気なく行っていたケアに対して「この対応でよかったのか?」「もっと良い方法はなかったか?」と考えるきっかけになります。**記録を書くこと自体が“振り返る時間”となり、気づきや課題の発見につながります。**また、自分だけでなくチームで記録を共有することで、新たな視点を得られることもあります。
・記録が「自分の言葉」になると成長に
最初は「どう書いたらいいか分からない」と感じても、経験を重ねていくうちに、記録が“自分の言葉”として自然に出てくるようになります。自分で考え、自分で記録する力がついてくると、職員としての自信や判断力も向上します。「記録=面倒な作業」ではなく、「記録=自分のケアの見える化」と捉える意識が大切です。
◯ チームでの振り返りに活かす
・定期的な記録の見直し会の活用
施設内で定期的に記録を見直す機会を設けることで、チーム全体のケアの質を高めることができます。**「こういう書き方だと伝わりやすい」「この対応は勉強になる」といった意見交換を通じて、記録スキルだけでなく支援の視点も深まります。**記録を共有財産として活用する場づくりが、成長の土台になります。
・記録を通じてケア方針を共有
日々の記録に目を通すことで、利用者の状態や職員の関わり方の変化を知ることができます。そこから「この対応を継続しよう」「別の方法を試そう」といったケア方針の共有ができ、**チーム全体で“利用者にとってベストな支援”を考えるきっかけになります。**記録は、現場での“共通言語”としての役割を持ちます。
・エピソード記録がやる気や誇りに変わる
「〇〇様が今日初めて笑顔で『ありがとう』と言ってくださった」「以前よりも会話が弾むようになった」など、記録に残したちょっとしたエピソードが、**職員のモチベーションや“やりがい”の再確認につながります。**感動的な場面や心温まる出来事は、チーム内で共有することで、介護の誇りを再認識する大切な時間になります。
まとめ|記録は“伝える力”そのもの
🔹 記録は、ケアの「証拠」であり「つながり」
介護記録は、自分の行動を振り返るためのツールであると同時に、次に関わる職員や他職種、時には家族や関係機関との大切な“橋渡し”です。ひとつひとつの記録が、チームの信頼と利用者の安心をつくっています。
🔹 「誰が見てもわかる」ことが記録の基本
主観やあいまいな表現ではなく、事実を具体的に記録することが重要です。5W1Hを意識し、客観的かつ簡潔に書くことが、良い記録への第一歩です。
🔹 記録は“振り返り”と“成長”の土台
日々の記録を通じて、自分のケアの見直しや気づきを得ることができます。チームで共有することで、学び合い・支え合いながら成長していける環境をつくりましょう。
🔹 記録は「その人らしさ」を残すもの
単なる出来事の記録ではなく、利用者の個性や日常、思いを見つめる視点を持つことで、“人を支える介護”が形になります。
📌 記録は未来へのメッセージ。
あなたの一文が、次のケアを変える力になります。
おわりに
最後までお付き合い頂きありがとうございました
いかがだったでしょうか?
スライドの作成もやりやすい形にしてみました。
参考にして頂ければ幸いです。
参考になるかわかりませんが、自分が職場研修で使用したスライドも載せておきます。
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