それって本当に“目的”ですか?〜手段が目的化してしまう現場の落とし穴〜
1. 目的と手段のちがいを整理しよう
「目的」は何のためにやるか
利用者の安心・尊厳・生活の質を守るための“目指す姿”
私たちが日々行っているケアの中で、最も大切なのは「この行動は何のためにしているのか?」という“目的”です。たとえば、排泄介助の目的は「漏れを防ぐこと」ではなく、「その人が不安なく、安心して排泄できること」。記録の目的も「書類を完成させること」ではなく、「チームでその人を支える情報を共有すること」です。目の前の行為の先にある、“利用者の生活がどうなるか”を意識することが、目的を忘れないコツです。
ケアの背景にある「本来の理由」に気づくことが大切
手順やマニュアルは、目的を達成するための道しるべにすぎません。例えば、「午前中にトイレ誘導する」という手順も、目的は「不安や失敗を防ぎ、快適な生活リズムを作ること」です。ところが忙しさの中で、「午前中に誘導する」が目的のようにすり替わってしまうことがあります。本来の理由=目的を明確に意識することが、丁寧な支援と利用者の安心につながります。
「誰のために」「どんな結果を得たいか」を意識する
「記録を書く」「誘導する」「声をかける」…これら一つひとつの行動の先に、“誰のためにやっているのか”“どうなってほしいのか”というイメージを持てているかが重要です。「この行動で、この方の今日の1日が穏やかになるか?」「安心できるか?」と考えることが、行動に意味とあたたかさを与えます。目的を意識した行動は、利用者に“心の届くケア”として伝わるのです。
「手段」は目的を達成するための方法
排泄介助、記録、誘導、声かけはすべて“手段”にすぎない
毎日のケアで当たり前に行っている“介助”や“記録”は、すべて目的を達成するための「手段」です。排泄介助は「失敗させないための作業」ではなく、「自分らしい排泄のサポート」ですし、記録は「ノルマ」ではなく、「チームで気づきを共有するツール」です。その“手段”が、利用者にとっての良い方向に導けているかどうかを、常に確認する意識が大切です。
手段の中身が良くても、目的とズレていれば意味を失う
どんなに丁寧に介助しても、その方が恥ずかしい思いをしていたり、無理やり感が残ってしまったとしたら、それは“目的達成”とは言えません。形や流れが整っていても、「その人の思い」に合っていなければ、本来の目的には届かないのです。「ちゃんとやってる」は手段の評価であり、「喜んでもらえた」「安心できた」は目的の評価です。この違いを意識することが、ケアの質を大きく左右します。
形だけのケアにしないための“見直し”が必要
手段が習慣化すると、いつの間にか「やること自体」が目的になってしまいがちです。「いつもの通り」が「本当にこの方に合っているか?」を見直す機会がないと、“形だけのケア”になってしまいます。たとえ慣れているやり方でも、「今のこの方に合っているか」「本来の目的を果たしているか」を時々問い直すことが、“考えるケア”への第一歩です。
2. 手段が目的になりやすい場面とは?
「時間通り」が優先されすぎる場面
排泄や食事の時間を守ることが目的化しがち
施設では「時間通りに業務を回す」ことが求められる場面も多く、排泄や食事の時間が固定されている場合があります。もちろん流れを乱さないことも大切ですが、利用者にとっての“快適さ”や“タイミング”よりも「時間内に終えること」だけが優先されると、その人らしい生活のリズムや安心感が犠牲になることがあります。時間管理はあくまで手段。本当に必要なのは「今、その人にとってどうするのが良いか?」を考える視点です。
「間に合わせる」ことに集中し、本人の状態を見失う
「この人数をこの時間までに誘導しないと」「全員分の食事介助を終わらせないと」という焦りがあると、利用者一人ひとりの“今の状態”をじっくり見る余裕がなくなります。たとえば、眠そうな方を無理に起こして食事に誘導したり、気分がすぐれない方に「とりあえず食べましょう」と声をかけてしまうなど、本来の“目的”を見失ったケアが生まれてしまいます。業務効率と利用者の心身状態とのバランスを考えることが大切です。
「今この方にとって必要なこと?」と自問する視点を
手順通りに物事を進めようとすると、つい“流れ”に乗せたケアになりがちですが、ほんの少し立ち止まって「この方は今どう感じているか」「別の方法の方がよいのでは」と考えることが、目的に立ち返る第一歩です。特に、体調が変わりやすい方や、意思表示が難しい方には、“いつもと同じ”がベストとは限りません。手段を繰り返すのではなく、毎回“目的に合っているか”を確認する習慣が求められます。
「記録を終わらせる」がゴールになってしまう場面
内容より「提出時間」が優先されると本末転倒
忙しい中で記録を“とにかく終わらせること”がゴールになってしまうと、内容が薄くなったり、利用者の様子が十分に反映されなかったりします。「○時までに提出」というルールが悪いわけではありませんが、**本来の目的である“情報共有”が果たせていない記録は、意味を失います。**時間も大切、でも“記録の質”こそがケアの根拠になります。急ぐときほど丁寧に、が意識のポイントです。
記録はチームの連携のための道具であり、書くこと自体が目的ではない
記録は、「職員が仕事した証明」のためだけに書くのではありません。食事の様子、表情の変化、いつもと違う反応など、“その人を知るための手がかり”を次の担当者や他職種と共有することが目的です。記録を読んだ誰かが、「この情報のおかげで早く異変に気づけた」「この声かけで笑顔が見られた」と感じられるような内容こそが、本来の目的を果たした記録だと言えるでしょう。
“使われる記録”を意識しよう
「読む人を意識して書く」という姿勢が、“使われる記録”を生みます。たとえば、「おかずは残した」ではなく「魚は箸が進まず、ため息をついていた」など、様子が伝わる表現を心がけると、次のケアの質が上がります。**目的は“記録を書くこと”ではなく、“次に活かすこと”です。**この視点を忘れずに、チーム全体のケアがつながる記録を目指していきましょう。
3. 手段と目的を見直すための視点
「誰のために」を忘れない
職員の都合で動いていないか、利用者の視点で考える
介護現場では、「時間がない」「人手が足りない」などの理由から、どうしても“効率”や“流れ”を優先した行動になりがちです。しかし、私たちのケアの“本来の目的”は、利用者一人ひとりの生活の質や安心を支えることです。たとえば「寝かせる時間」や「食事の進め方」など、職員側の都合ではなく、「今この方が何を望んでいるか?」という視点を取り戻すことで、手段に振り回されないケアが実現できます。
「この行動はこの方の生活を良くするためか?」と自問する習慣
すべてのケアにおいて、「これはこの人のためになっているのか?」という問いを自分に投げかける習慣を持つことが大切です。たとえば、入浴拒否があったときに「どうやって入れるか」ではなく、「なぜ入りたくないのか」「今日は本当に必要なのか?」と考えること。**目的は“入浴させること”ではなく、“清潔と快適を保つこと”です。**その視点があるかどうかで、ケアのアプローチは大きく変わってきます。
一人ひとりに合わせた目的の再確認を
利用者の状態や価値観、体調は日々変化します。同じ手順でも「その人に合っているか」は毎回見直す必要があります。「前はこれでうまくいったから今回も同じでいい」という思い込みではなく、「今日はどうだろう?」「最近の様子から見て、この方法が合っているか?」と考えることが大切です。その人にとっての“今の目的”をチームで確認しながら進めるケアが、より深い信頼関係と安心感を生み出します。
「なぜそれをやるのか?」と問い直す
同じ行動でも目的が違えば優先順位も変わる
たとえば「歩行訓練をする」という行動一つをとっても、目的が「転倒予防」なのか「本人の自立支援」なのかで、支援の方法や声かけの仕方は変わります。**手段だけにとらわれていると、「やること」が目的になり、本来目指す“意味のある結果”を見失いやすくなります。**行動の背景にある「なぜ」を職員全員で共有することで、ケアの質と方向性が一致しやすくなります。
「手順通り」でも、利用者の気持ちと合っていなければズレが生じる
マニュアルに沿った対応は大切ですが、それがすべての利用者に“合っている”わけではありません。ときには、「今は声をかけない方が安心できそう」「今日のこの方には、順序より気持ちに寄り添った方が良い」と感じる場面もあるでしょう。正しい“やり方”より、“その人にとって意味があるかどうか”を考える姿勢が、信頼されるケアにつながります。
忙しさの中でも、少しだけ立ち止まる“ゆとり”を持つ
業務に追われる毎日の中で、考える時間を持つのは難しいかもしれません。でも、ほんの5秒でも「このやり方で大丈夫?」と立ち止まることで、目的に立ち返る力が育ちます。「こうするのが当たり前」と流すのではなく、「この方にとって今はどうか」と見つめる“心の余白”が、より良いケアを生み出します。ゆとりは時間ではなく、意識の中に生まれるものです。
4. チームで目的意識を共有する
言葉にして目的を確認し合う
申し送りで「このケアの目的は何か」も共有する癖づけを
日々の申し送りや記録では、「何をしたか」だけでなく「何のために行ったか」まで伝えることが大切です。たとえば、「朝トイレ誘導」ではなく、「不安が強かったため、安心して排泄できるよう早めに声をかけた」といった形で**“意図”を共有することで、他の職員も同じ目的をもって関わることができます。**ケアの方法だけでなく、背景にある目的を言語化する習慣が、統一された支援の第一歩になります。
「やること」だけでなく「なぜやるか」をチームで明確に
「入浴介助をする」「リハビリを促す」「間食を提供する」など、ケアの“行動”は共有できていても、その“理由”まで共通認識があるとは限りません。同じ行動でも、目的がズレていると職員間で対応に違いが出てしまいます。「なぜこのケアを選んだのか」「何を大切にしたいのか」という部分までチームで明確にすることが、ブレない支援につながります。
ケアカンファレンスでの“目的”の再確認が効果的
定期的なカンファレンスでは、「できているかどうか」だけでなく、「目的を果たせているか」に焦点を当てて振り返ることが重要です。「この目標は本当にこの方に合っていたか?」「やり方は目的にかなっていたか?」と話し合うことで、**手段が目的化していないかの確認になります。**個人の思い込みや慣れに気づき、チームでケアの方向性を再確認する場として活用しましょう。
目的に立ち返る職場の文化をつくる
「形はできているけど、目的と合ってる?」と声をかけ合える関係性
「うまくいってるけど、それって本当にこの人のためになってる?」と気軽に言い合える雰囲気は、チームの大きな強みです。決して責めるのではなく、**「目的を見失っていないかを一緒に考える」文化が、よりよいケアを育てます。**気づきを共有できる職場では、職員一人ひとりが“考える力”を持ち、利用者にとっての最適なケアを追求しやすくなります。
後輩にも“目的ありき”の視点を伝える
新人や後輩職員は、まず手順を覚えることに集中しがちです。だからこそ、「これはなぜやっているのか」を先輩職員が丁寧に伝えることが大切です。**「このケアはこの方にとって何を意味しているのか?」という考え方を伝えることで、“形だけの介護”ではなく、“考える介護”の基礎が身につきます。**教える立場として、目的を語れることも大切なスキルです。
ケアの中に“考える時間”を作ることで、本質的な支援が生まれる
忙しい毎日の中で、あえて“考える時間”をつくることは簡単ではありませんが、**申し送りの前後や休憩中に「このケア、これでよかったかな?」と小さく話し合う時間をつくるだけでも、目的意識は育ちます。**ひとつの声かけが、他の職員の視点を変えることもあります。行動の確認だけでなく、目的の確認ができる職場は、支援の質が自然と高まっていきます。
5. 利用者の“今”と“これから”を中心に
ケアの中心に“人”を置く
何をするかではなく、“誰にどのように関わるか”が最も大切
「排泄介助をする」「記録を書く」など、業務は日々たくさんありますが、それらはすべて“手段”です。ケアの主役は“業務”ではなく“人”。大切なのは、その人が**「どんな気持ちで今日を過ごしているか」「どんなふうに接してほしいか」**という心に寄り添うことです。手順どおりでも、心が伴っていなければ信頼関係は生まれません。一人ひとりの“今この瞬間”を大切にすることが、本当に意味のあるケアにつながります。
手段にこだわるより、利用者の「安心」「笑顔」「穏やかさ」に注目
「この時間に〇〇をすること」が目的になってしまうと、本人の感情や状態を見落としてしまいます。「この方が安心できているか?」「表情に笑顔があるか?」という**“心の状態”を観察する視点**があれば、自然と対応の仕方も変わってくるはずです。ケアの価値は、“予定通り”にあるのではなく、“心が通う”ところに生まれます。感情に寄り添うケアは、形よりも記憶に残る支援になります。
その人の人生を支えているという自覚を持つ
私たちが日々関わっている利用者一人ひとりには、それぞれ長い人生があります。これまで大切にしてきたもの、努力してきたこと、譲れない価値観があります。今目の前にいる姿だけを見て「できない人」と思うのではなく、「その人が大切にしてきた生き方を、どう支えるか」を考えることが、人としての尊厳を守るケアになります。私たちは、“人生の終盤を共に歩む伴走者”であるという誇りを持ちたいものです。
小さな問いかけが大きな気づきに
「このやり方で本当にこの人のためになっているか?」
何気なく繰り返しているケアでも、一歩引いて見直してみると、「形だけになっていたかもしれない」と気づくことがあります。「これでよかったのか?」「もっと良い方法はあったのでは?」という小さな問いかけが、支援の質を大きく変える第一歩になります。正解を探すのではなく、問い続ける姿勢そのものが、思いやりあるケアに繋がっていきます。
「手段だけに集中してないか?」
日々の忙しさの中で、「やらなきゃいけないこと」にばかり意識が向いてしまうことは、誰にでもあります。でも、ほんの少し立ち止まって「この人にとって、いま何が大切か?」を思い出すことで、心の焦点が“業務”から“人”へと戻ってきます。手段に没頭してしまうと、“ケア”ではなく“作業”になってしまう危険性があります。気づいたときに、立ち止まる勇気を持ちましょう。
日々の小さな気づきが、チーム全体の質を高めるきっかけになる
「このやり方、もっとこうしたらいいかも」「この方、今日ちょっと様子が違う」——こうした気づきをチームで共有することで、支援はどんどん深まります。一人の気づきが、職場全体の視点を変えることもあります。“当たり前”を見直すことを恐れず、小さな気づきを大切にする文化をチームで育てていきましょう。それこそが、目的を見失わないケアの土台になります。
まとめ:目的に立ち返ることが、ケアの質を守る
1. 手段は、あくまでも“手段”である
• 排泄介助、記録、誘導…どれも“目的を達成するための方法”にすぎません
• 「やること」ではなく「なぜやるのか」を見失わないことが大切です
2. 手段が目的化すると、利用者の思いが置き去りに
• 時間を守ること、記録を仕上げることばかりが優先されていませんか?
• 「この方にとって本当に必要なことか?」と問いかけ続けましょう
3. “利用者の今”に合わせた目的の再確認を
• 状態・気持ち・価値観は日々変わります
• いつもの方法が最善とは限りません
• 「その人らしさ」を守るために、目的も柔軟に見直しましょう
4. チーム全体で“目的の共有”を
• 申し送り・記録・カンファレンスでは、「なぜそれをするのか」も伝える
• ケアの意味を言葉にする職場は、ブレないケアが実践できます
• 気づきを伝え合えるチームが、最強の支援体制をつくります
5. 一瞬の“問い直し”が、深いケアを生む
• 「この方法で本当にいいのか?」という小さな疑問を大切に
• 手順よりも、“その人の今”に合った関わりを選べる視点を持ちましょう
• 日々の“当たり前”に、思いやりの視点を添えることが、ケアの質を守ります
“手段”ではなく、“その人のため”を見つめ続けるチームでありたい。
おわりに
最後までお付き合い頂きありがとうございました
いかがだったでしょうか?
スライドの作成もやりやすい形にしてみました。
参考にして頂ければ幸いです。
参考になるかわかりませんが、自分が職場研修で使用したスライドも載せておきます。
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